[p.0813][p.0814]
更科日記
天喜三年十月十三日の夜の夢に、いたる所のやのつまのにはに、阿弥陀仏たち玉へり、さだかには見えたまはず、霧ひとへへだゝれるやうにすきて見え玉ふお、せめてたえまに見奉つれば、蓮花の座のつちおあがりたる、たかさ三四尺、ほとけの御たけ六尺ばかりにて、金色にひかりかゞやき玉ひて、御手かたつかたおばひろげたるやうに、いまかたつかたには、いんおつくり玉ひたるお、こと人のめにはみつけ奉つらず、我一人見たてまつりて、さすがにいみじく気おそろしければ、すだれのもとちかくよりても、え見奉つらねば、仏さはこのたびは帰て後、むかへこんとの給ふ声、わがみゝひとつにきゝいで、人はえきゝつけずとみるに、うちおどろきたれば十四日なり、