[p.0814]
平家物語

物怪の事
源中納言がらいの卿のもとに、めしつかはれける青侍が、見たりける夢も、おそろしかりけり、たとへば大内の神祇くはんとおぼしき所に、そくたいたゞしき上らうの、あまたよりあひ給ひて、儀ぢやうのやうなる事の有しに、まつざなる上らうの、平家のかたう人し給ふとおぼしきお、その中よりしておつ立らる、〈○中略〉青侍夢の中に、あるらうおうに次第に是おとひ奉る、ばつ座なる上らうの、平家のかたうどし給ふとおぼしきは、いつくしまの大明神、節刀およりともに給ふと、おほせらるゝは、八幡大善薩、その後わがまご〈○藤原頼経〉にも給と、おほせけるは、かすがの大明神、かう申すおきなは、たけ内の明神とこたへ給ふといふ夢おみて、さめてのち人に是おかたる程に、〈○下略〉