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沙石集
六下
亡父夢子告借物返事
中比武州に、さかいまぢかき程住て、互にいひむつぶる俗有けり、一人はまづしく、一人はゆたかなりける、さるまヽに常に借物なんどしけり、さてともに死去して後、二人之子供、親共の肱つびしが如くいひかよはしけり、まづしかりけるが子夢に見けるは、亡父来てよにものなげかしき気色にていひけるは、それがし、とのヽ物おいくいくらかりて、かへさヾりし故に、あの世にてせめらるヽ、彼子息のもとへ返すべしとつぐ、夢さめて親の時の後見に、事の子細おたづねければ、さる事侍りき、御夢にたがはずといふ、〈○下略〉