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宇治拾遺物語
十三
むかし備中国に郡司ありけり、それが子にひきのまき人といふ有けり、わかき男にてありけるとき、夢おみたりければ、あはせさせんとて、夢ときの女のもとに行て、夢あはせてのち、物語していたるほどに、人々あまたこえしてくなり、国守の御子の太郎君のおはするなりけり、〈○中略〉女きゝてよにいみじき夢なり、かならず大臣までなりあがり給べきなり、返々めでたく御覧じて候、あなかしこ〳〵人にかたり給なと申ければ、この君うれしげにて衣おぬぎて、女にとらせてかへりぬ、まき人、部屋より出て、女〈○夢解〉にいふやう、夢はとるといふ事のあるなり、〈○中略〉我おこそ大事に思はめといへば、女のたまはんまゝに侍べし、さらばおはしつる君のごとくにして入給て、そのかたられつる夢お、つゆもたがはずかたりたまへといへば、まき人よろこびて、かの君のありつるやうにいりきて、夢がたりおしたれば、女おなじやうにいふ、まき人いとうれしく思て、衣おぬぎてとらせてさりぬ、〈○中略〉御門かしこきものにおぼしめして、次第になしあげ給て、大臣までになされにけり、されば夢とることは、げにかしこき事なり、