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梅園日記

夢魘
俗に胸に手おおきて寝、又梁の下に寝ぬれば、おそはるといふは、久しきならはし也、源氏物語御幸巻に、夢にとみしたる心ちして侍てなん、むねに手お置たるやうに侍と申給ふ、湖月抄に、おびゆる心なりとあり、又誹諧紅梅千句に、楽寝にはおそはれましや小夜枕といふ句に、胸にある手おのけてのびする、とつけたり、又俗に左右の手の拇指お屈して、四の指にておさへて寝ぬれば、おそはるゝ事なしといふは、病源候論〈二十三〉雲、卒魘者屈也、謂夢裏為鬼邪之所魘屈也、養生方導引法雲、拘魂門、制魄戸、名曰握固、法屈大拇指、著四小指内、抱之積習不止、眠時亦不復開、令人不魘魅、〈聖済総錄百九十六に、禁夢魘法と題して、此法お載たり、〉又梁の下に寝る事は、文海披沙雲、今人寝忌圧梁及当戸、曰、能令人魘不寤、淮南子曰、枕戸撛而臥者、鬼神蹠其首、則知俗忌久矣、千金方〈道林養生〉雲、臥勿当舎脊下、また朱子語類〈鬼神門〉雲、雨、風、露、雷、日、月、昼、夜、此鬼神跡也、此是白日公平、正直之鬼神、若所謂有嘯于梁触于胸、此則不正邪暗、或有或無、或去或来、或聚或散者、とあり、梁と胸とおいへるお見れば、上の事おいふに似たり、