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梅園叢書
物の怪の弁
我〈○三浦安貞〉かつて史およみし時、秦の二世皇帝、関羽、張飛など夢み、詩集おけみせし時、孫光憲などと詩などつくりし夢お見けり、是によりて思へば、僧徒の或は極楽にゆき、閻羅王にあひ、地獄の有りさまなど夢に感ずる事さも有るべし、夢はもと心の影像にして、あやしむにたらず、ある人のかたりし、おもひもよらぬ事お夢にもみるなれど、傘さして鼠の穴にはいる夢はみずといひしお、かたへの人の、此話きゝたらん人は、みる事有るべしといひしは、猶におぼえ侍る、夢は心の霊より発すれば、偶さきの事にあふ夢も有るべけれど、夢ごとに左あるものにあらず、或は五臓の病により、あやしき夢もあるものなり、ある人のいひし、我はよき夢みたりとて、嬉しともおもはず、あしき夢みたり迚、あしくも思はず、あしき夢おば、よき夢のさしつぎとなし、よき夢おばあしき夢のさしつぎとなすと雲ひし、一時の戯言ながら、おもしろく聞え侍る、