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倭訓栞
前編一/大綱
田舎ことばには濁音多し、よて世俗にびる、ばち、どんぼう、がに、がへるといへり、是皆訛言也、大よそ倭語の発声に濁音なし、其たま〳〵濁音に唱ふる、岳おだけとし、寄居虫おがうなとするが如きは、皆後世転訛のいたす所なるべし、
四国にて、ばかりおばとのみいひ、美濃三河にてさまおさとのみいふは略音也、三河にて見んずお見ず、きかんずおきかず、行んずおゆかずといふも同じ、又遠江にては、何事おいふにも発語にものといひ、三河碧海郡は何事おいふにも、いらお後につく、朝鮮音に南無阿弥陀仏お、のみおみとふるいといふが如し、
田舎詞はだみて聞うるお、俗になまる(○○○)といへり、〈○中略〉万葉集、古今集にも、東歌の部お立たり、その詞音韻相通ならでは解得がたし、