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雲萍雑志

一言寺の庫裏お働ける老婆あり、年七十になん〳〵として、多弁いはんかたなく、あけくれ人の噂おいひ、無益のぜひおのゝしること、いとかしましくうるさければ、ある人、諷諫のこゝろにて雲ひけるは、多弁長舌なるものは、その意気おむなしく労して、答焉呼吸お養はざれば、必ともに短命なりと、物がたりければ、それより後は、かの老婆なほ長生やしたかりけん、物いはんとしては止みぬるさま、いとおかしかりしとぞ、さばかり生きのびたる老婆の、猶いつまでか世にあらんとての心づかひ、欲にかぎりのあらざるよと、物がたりせし人ありし、