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鳩巣小説

一井上新左衛門は名誉の口きヽにて候、元右筆にて、後に御勘定頭に成申なれ候、或時初鱈お何方よりか献じ申候、名人松平伊豆守殿見届被申処、塵付有之候、伊豆守どの役人お以て殊の外叱り申され、不念至極の義に候、是お御前へ出し候て、よきものかとて、叱り申され候へば、新左衛門傍に居候て、いや鱈にはちり有ものに御座候と申候へば、伊豆守どの何と鱈はちり有ものとは、聞へぬことお申候と被申候へば、新左衛門いや三番叟にちりやたらと申候由被申候へば、伊豆守殿又新左がおどけおいわれ候とて、笑申され候、是は伊豆守どの性の急なる処お、諷し申気味に候、
○按ずるに、諷諫の事は、諫篇に散見す、