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古今著聞集
十六/興言利口
治部卿兼定滋野井の泉にて納凉せられけるに、増円法眼その座につらなりけり、盃酌のあいだ、治部卿さぶらひむまの允なにがしとかやいひける老たる者、香のひたゝれのしほれたるおきて、尫弱の体にて、物くひて居たりけるが、衰老のものにて、歯もなくてくひわづらひたるお見て、増円連歌おしける、
老むまは草くふべくもなかりけり、治部卿いげ興ある句なりとて、とよみのゝしるお、馬のかみ聞て、
おもづらはげて野はなちにせん、と付たりけるに、満座にがりけり、かやうの荒言はよく〳〵ひかふべき事也、