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十訓抄

楊梅大納言顕雅卿は、若くよりいみじき言失おぞし給ひける、神無月の比、或宮原に参りて、みすの外にて女房たちと、物がたりせられけるに、時雨のさとしければ、供なる雑色およびて、車のふるに時雨さし入よとの給ひけるお、車軸とかや、おそろしやとて、みすの内笑ひあはれけり、或女房の御雲たがへ常に有と聞ゆれば、げにや御祈の有ぞやといはれければ、其ために三尺の鼠お作て、供養せんと思侍ると、いはれたりける、折節鼠のみすのきはお走り通りけるお見て、観音に思まがへて、の給けるなり、時雨さし入よには増りて、おかしかりけり、