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十訓抄

可誡人上事
或人雲、人は慮なく雲まじき事お、口とくいひ出し、人の短おそしり、したることお難じ、かくすことお顕し、恥がましきことおたゞす、これらすべて有まじきわざなり、我は何となく雲ちらして、思もいれざるほどにいはるゝ人、思つめていきどおり深く成ぬれば、はからざるに恥おもあたへられ、身はつる程の大事にも及ぶなり、えみの中の剣は、さらでだにも恐るべき物ぞかし、心得ぬ事おあしさまに難じつれば、還て身のふかくあらはるゝ物也、大かた口かろきものに成ぬれば、某に其事きかせそ、彼者にな見せそなど雲て、人にこゝろおかれ、隔らるゝ口おしかるべし、また人のつゝむ事の、おのづからもれ聞えたるに付ても、かれはなしなど疑れんは、面目なかるべし、然ればかた〴〵の上おつゝしむべし、多言可止也、