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十訓抄

大相国〈○藤原実行〉宰相にておはしける時、歌合せられけるに、夏月お俊頼、
光おばさしかはしてやかゞみ山峯より夏の月は出らん、とよめりけるお、峯より夏の月は出らんと侍るは、秋冬は谷より出けるにやと申ければ、俊頼のぶる方なくて居たるに、大判事明兼が下座に候て、聊か口入お申たりけるお、俊頼腹たゝしき気色にて、おのれがやうなる侍などは、たゞこそ居たれ、公達の物仰らるゝに、さしいらへするやうやはある、あら便なといひければ、明兼にがりにけり、さやうの事には、心得て下臘はつゝしむべき也とぞ申合ける、