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古今著聞集
十六/興言利口
此女院の女房共の中に、いとおかしき事おほく侍けり、医師時成がむすめ備後とて候ける、仏師雲慶がむすめ越前とて候けるに、ある日越前が額に瘡の出たりけるお、びんごにむかつて、やおつぼね、此かさ見てたび候へ、さすが御身ぞ見しらせ給はんといひたりけるお、びんごとりもあへず、見るまゝに、みせんおいれたまへるおば、なにとかはし侍べきと、答へたりけるこゝろのはやさ〈○さ原脱、拠一本補、〉おかしかりけり、たがひにかくざれあふ事おのみしける、〈○中略〉尾張が咳病おしてわづらひけるお、備後とぶらふとて、何おやみ給ふぞといひたりける返事に、餓鬼病おやみ候ぞとこたへたりければ、備後さらばひんさうしお煎じてめせといひたりけり、すべてかやうのことばたがひのつねの事也、