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常山紀談

秀吉北条お討るゝ時、諸将浮島が原に並居て、秀吉おまつ、秀吉糸緋威の物具著て、唐冠の冑、黄金おちりばめたる太刀佩て、土俵の大なる羽壼に、征矢一筋指、仙石権兵衛が参らせし朱の滋藤の弓持て、七寸有ける馬に、金の瓔礫の馬甲かけ、静に歩ませて打通られけるが、東照宮、信雄と共に出迎ひ給ふお見て、馬より下り、いかに弐心有と聞たり、いざ一太刀参らんと太刀の柄に手お懸らる、東照宮左右の人に向はせ給ひ、軍始に太刀に手お懸られ、門出の目出たく候と高らかに仰有ければ、秀吉何ともいはずして、又馬に打乗り通られけり、