[p.0878]
仮名世説
天明の比、地口変じて語路(ごろ)といふものとなれり、語路とはことばつゞきによりて、さもなき言のそれときこゆるなり、たとへば、
九月朔日命はおしゝ〈ふぐはくひたし、いのちはおしゝと、響のきこゆるなり、〉 市川団蔵よびにはこねへか〈内からだれぞよびには来ぬかと、きこゆるなり、〉一とせ浅草正直蕎麦の亭にて、語路の万句あり、その時宗匠の句、語路万(ごろまん)たま子なり、のろまの玉子といふ事なるべし、此比の佳句とて、人のもてはやしゝは、
いなかさふらひ茶みせにあぐら〈しなざやむまい三みせんまくらなり〉
ふざな客には芸者がこまる〈芝の浦には名所がござるなり〉