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古事記伝
十三
諺は許刀和邪(ことわざ)と訓り、抑此許刀和邪てふこと、事態(ことわざ)と言同くて、まぎらはしけれど、別なり、許刀は言和邪は、童謡(わざうた)、禍(わざはひ)、俳優(わざおき)などの和邪と同くて、今世にも、神又死人の霊などの崇るお物の和邪と雲是なり、さてそは常にはたゞ祟りて凶(あし)き事にのみ雲めれど、本は凶にも吉にもわたる言なり、かくて何事にまれ、人の口お仮て、神の歌はせたまふお和邪歌(うた)と雲、言せたまふお言(こと)和邪とは雲なり、〈禍も、神の為したまふ意お以〉〈て〉〈雲〉〈ふ〉〈、俳優(わざおき)も、神懸につきて雲称なり、石屋戸〉〈の〉〈段に神懸の態お為て、大御神お招奉りし より雲り、伝八、五十七葉お考〉〈へ〉〈合せてしるべし、〉かかれば、言和邪は、本は神の心にて、世〉〈の〉〈人に言せて、吉凶ことお示喩たまふお雲しが、転りては、たゞ何となく世間に偏く言ならはしたる言おも雲なり、〈諺字は、転れる方に当りて、本の意にはあらず、〉