[p.0886]
平家物語

内裏女房の事
くだんの女ばうのつぼねの下口辺にたゝずんで聞ければ、此女ばうのこえとおぼしくて、あないとおし、いくらもまします君たちの中に、此人一人かやうになり給ふよ、人はみなならお焼きたるがらんのばちといひあへり、中将もさぞいひし、我心におこつてはやかねども、あくたう多かりしかば、てん手に火おはなつちて、多くのとうだうおやきほろぼす、末の露(○○○)、本の雫(○○○)のためしあれば、我身一つのざいごうにこそならんずらめといひしが、げにさと覚ゆるぞや、〈○下略〉