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駿台雑話

天野三郎兵衛 東照宮参河に御座なされし時、御制法お定められ高力与右衛門清長、本多作左衛門重次、天野三郎兵衛康景お三奉行に仰付らる、其ころ輿人の諺に、仏高力(○○○)、鬼作左(○○○)、どちへんなしの天野三郎兵衛(○○○○○○○○○○○○○)といひしとぞ、どちへんなしとは、左右遷就して一決せぬの俗語なり、此諺おもて考るに、高力はたゞ完仁にして、本多があらきにかまはず、本多はだゞ勇決にして、高力が慈悲にかまはず、天野は高力か本多か裁断おそねむ心なく、たゞ道理次第にして、少しも己おたてぬと見へ候、