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今昔物語
二十八
信濃守藤原陳忠落入御坂語第卅八
守の答ふる様、落入つる時には、馬は疾く底に落入つるに、吾れは送れてそめき落行つる程に、木の枝の滋く指合たる上に、不意に落かヽりつれば、其の木の枝お捕へて下つるに、下に大きなる木の枝の障つれば、其れお踏へて、大きなる胯木の枝に取付て、其お抱かへて留りたりつるに、其の木に平茸の多く生たりつれば、難見棄くて、先づ手の及びつる限り取て、旅籠に入れて上つる也、未だ残りや有つらむ、雲はむ方無く多かりつる物かな、極き損お取りつる物かな、極き損お取つる心地こそすれと雲へば、郎等共現に御損に候など雲て、其の時にぞ集て散と咲ひにけり、守僻事な不雲そ、女等よ、〈○中略〉受領は倒る所に土お攫め(○○○○○○○○○○○)とこそ雲へと雲へば、〈○下略〉