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長門本平家物語

猿眼の赤髭なるが、もえ黄糸おどしの腹巻鎧に、白柄の長刀持ちたりけるが、〈○中略〉信つら太刀おさげて丁と合す、二の太刀おうたせず、むずとくんで、此男お左の脇にかいはさみて、右の手にて太刀お打振りて、出羽判官は是おば見候はぬかや、〈○中略〉信つらにさきざまに追立られて、逃ちりたりける下部ども、まかげおさして見けるが、さる眼(○○○)の赤髭のさうにはよらざりけりといひあひければ、誠にかなしげなる顔おもちあげて申けるは、まさる犬まなこ(○○○○○○○)にあひぬれば、かなはぬぞかしと申けるぞおかしかりける、