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諺草
一/序
われさきに、わらはべのおのこ、文字しるたよりにもなれかしとて、和爾雅といふふみおつゞりて、既に梓人にさづけ侍る、されどもかの書はもはら、真茗にかたよりたれば、女文字ならでは解がたき言語などおば、皆是おもらしぬ、故に今又世俗にとなふる諺、児女のいふ詞どもの、からめやまとの文どもに本づきたる、出所正しきおえらびて、これおしるし、ちかき人のあつめおけるかんな文どもに、和語おとけるものあるおもひろひとりて、冊子となし侍る、もとよりつたなきことはざなれば、よし見る人もあらしとおもひ侍れど、かねてより〳〵心お用ひし事、今更かいやりすてんも本意なければ、吾家の弊帚に加へ侍りぬ、門類のはじめに、先諺お挙たれば、名づけて諺草といふ、誠に無益のわざながら、ひねもす心お用ひざらんより、これおするは猶やむにまさらんかも、