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毛吹草

としごろ俳諧に心およせ侍ける友だちのたれかれより、あふ毎にかたはらいたき事共お去つ主、たがひにそゝのかして、これおもてあそび侍、凡俳諧の徳義お思ふに、詩歌連歌の詞は申に及ず、あらゆる俗語に至る迄、大かた其嫌なく、ひろく雲おけるにや、なべての人耳にうとかちずして、和歌の友となる事おのづからなり、〈○中略〉抑此度書集ける其品多し、先句体のそれぞれ、指合のあらまし、次には四季の詞、恋の詞、同連歌の詞も追加しけるは、今めかしき事也、扠又世話の詞は、俳諧の種にもならんやいなや、あらぬ事迄拾集て、是おつがはす、まして諸国の名物付合等にも、放埒の類多し、皆用捨有べき事にて、発句付句は犬子集の以後、人の語きかせる援かしこの句、予が愚なるおもあまた入申侍、みる人目おたつべし、いよ〳〵嘲おまねくに似たり、よしよしもとより塵の身なれば、人の詞の玉箒にははき捨られんもさる事ならし、実やかゝる惡事は千里お走ると雲、しかもことしは完永十五年戊寅の毛お吹て疵おもとめん事うたがひなし、すべて発句の数は行帰る虎のあゆみにひとしく、付句といへば、狐住べき国所の道ののりに同じ、よりて睦月後の五日に、大むね是おしるしおはりぬ、
〓謎
謎は、なぞ、又はなぞだてと雲ひ、古くはなぞなぞとも雲へり、なぞとは、何ぞの義にして、即ち人に問ふに、隠語お寓したる言語、若しくは詩歌お以てし、之お解くものおして、能く問者の意に的中せしむる戯お謂ふなり、謎には又字体お分析し、或は其辺傍お離合して判するものあり、之お字謎と雲ふ、又歌合に倣ひて、互に優劣お争ふものあり、之お謎合と雲ふ、後世、継連歌、謎附、判じ物等あり、何れも皆謎より出たる遊戯なり、