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徒然草

大覚寺殿にて、近習の人ども、なぞ〳〵おつくりて、とかれける所へ、くすし忠守参りたりけるに、侍従大納言公明卿、我朝のものとも見えぬ忠守かなと、なぞ〳〵にせられけるお、唐瓶子とときてわらひあはせられければ、腹だちて退出にけり、〈○中略〉
資季大納言入道とかやきこえける人、其氏宰相中将にあひて、わぬしのとはれん程のこと、何事なりとも答申さゞらんやといはれければ、具氏いかゞ侍らんと申されけるお、さらば、あらがひ給へといはれて、はか〴〵しき事はかたはしもまねびしり侍らねば、尋申すまでもなし、何となきそゞうごとの中に、おぼつかなきことおこそ問奉らめと申されけり、ましてこゝもとのあさきことは、何事なりともあきらめ申さんといはれければ、近習の人々、女房なども、興あるあらがひなり、おなじくは御前にてあらそはるべし、負けたらん人は、供御おまふけらるべしとさだめて御前にめしあはせられたりけるに、具氏おさなくよりきゝならひ侍れど、其心しらぬこと侍り、馬のきつりやう、きつにのおか、中くぼれ、いりくれんどうと申す事は、いかなる心にか侍らん、承らんと申されけるに、大納言入道はたとつまりて、是はそゞうごとなれば、いふにもたらずといはれけるお、もとよりふかき道はしり侍らず、そゞろごとおたづね奉らんと、さだめ申しつと申されければ、大納言入道まけになりて、所課いかめしくせられたりけるとぞ、