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三養雑記

なぞ〳〵
徒然草に、註釈の書も多かれど、この馬のきつのなぞ〳〵お解たるものなし、南畝翁の筆記に、真字徒然草に、馬之吉了狐之尾之中凹入衢連動とかきて、吉了お秦吉了といへるはいかゞあるべき、南郭の大東世語には、馬吃糧狐丘凹入九連等とかき、保己一撿狡は、馬吉駺狐丘凹入九連倒なり、山海経に、犬封国に文馬あり、縞身朱鬣、名づけて吉駺といふ、駿馬も、狐の丘につまづきてぐれんだうと倒るゝことありと雲いましめなりとかやといり、これにて謎の字面はしらるゝものから、その意までの解に及ばず、閑田耕筆に解たるお併て明解といふべし、柏原瓦全が記せるものに見えたるよし、〈○中略〉かくいへば、いとむつかしく聞ゆれども、今童児の常のたはぶれにいふなぞ〳〵に、これと全おもむきの似たるは、厠のわきにて狐こんと諦、それは空言よ、みゝのなきみゝつくがもんどりおうつ、これ馬のきつと同例にて、空言よにてこれまでおはぶくなり、みゝのなきみゝづくは、みゝがなければ、づくの二文字ばかり存(のこ)るお、もんどりおうつといふにて、倒置すれば、屑(くづ)といふ謎となれるなり、