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閑田耕筆

謎語といふもの、やまともろこしも、古へより聞ゆ、絶妙好辞お謎字にせるがごとしこゝに柏原の瓦全記せるもの有、おかしければあぐ、
あたり近きにある宮がたの古女房の住ておはしけるが、雨夜のつれ〴〵なるに、なぞ〳〵おかけて興じ給ふ、椿葉落て露となるとかけて、雲ととく、椿葉落てとは、はの言お除く也、露となるとは、つばきのつおゆに置かふに也、さてゆきとはなりぬ、これにつきて、かの兼好の書給ふつれ〴〵草の中に、馬のきつりやうきつにの岡中くぼれいりぐれんどうといふことの、わきがたきに、ものしりの大納言殿もまけになりて、負わざいかめしうせられしといふこと見ゆるが、心にうかびてかうがへ見るに、馬のきつは、馬といふ言のく也、りやうきつにのおか、中くぼれいりとは、り(○)とか(○)と上しもの二文字おのこして、中の七文字おのくるお、中くぼれいりとは、いひまぎらはしたるなり、ぐれんどうは、顚倒(てんとう)にて、残れるりか(○○)の二文字おさかしまによみ、雁(かり)になるなぞ〳〵とはとけたり、さしも深くいひかすめて興せし、むかしの風流なるべしといへり、おのれおもふに、此うちれいりの三もじは、いひまぎらはしたるとはいへど、猶いかにともおもはるゝものから、かりと判ずるはおもしろし、