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三養雑記

字謎
大覚禅師即心是仏容に雲、有節不干竹、三星摎月宮、一人居日下、弗与衆人同、節の竹冠お除けば、則即の字なり、星の如く三点して、下に半月おおけば、心といふ字なり、日下と書て、下に一の人といふ字おおけば、是の字なり、弗と人と同ずれば、仏の字なり、これ字謎(○○)の詩なり、四箇口尽皆方、十字在中央、不得作田字、道不得作器字、これは詩にあらで字謎なり、解て図字の謎とせり、〈予かつて和漢の字謎、離合詩、隠語の類お集め二巻とし、猜彙と名つく、〉古歌に、雪ふれば木毎に華ぞ咲にけるいづれお梅とわきておらまし、といふは、梅字おわかちて詠なり、吹からに秋の草木のしおるればむべ山風お嵐といふらん、といふも、嵐字おわかちよめるなり、近来の唄浄瑠璃の文句にも、百日曾我〈近松門左衛門作〉に、言しがらむから糸のとくにとかれぬ下心といへるは、恋といふ字の謎なり、江戸節夜の編笠に、山にも松のみだれ髪といふも、謎にみだれるといふ訓あればなり、今の童謡に、松といふ字は木辺に公(きみ)よ、きみにはなれてきがのこるといふなども、雅俗の分は、自殊なりといへども、おもむきは絶て相似たりといふべし、