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泊泊筆話
一大伴俊明〈通称山岡治左衛門柳蛍侍臣〉後に剃髪して、明阿といはれき、〈○中略〉平生睡眠する事なく、つとめてねぶらじとにはあらねども、癇症にやたえてねぶたしといふ事お覚えずとかたられけり、夜は枕につきて、なほ筆紙おとりつゝ、書写などせられければ、今にそのうつされたる事どもの、筆おひきつづけたるやうの筆くせありき、或時従者一人お具して、近きあたり旅行せられき、旅屋につきて、従者は道の疲にたへずして、枕おとるやおそきと、寐入りぬるお、明阿は例のねられねばよびおこして、淋しきに今しばしかたらひてなとて、ものがたりしでいねさせず、暁にいたりしかば、従者は大きにわびて、つとめていとまおこひて、独り家にかへれりけるとそ、おかしき物語なりけり、