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古今著聞集
十六/興言利口
おなじ卿〈○藤原家成〉の大和国なる所領より、物お上けるさたの物夫よりはるかにさきだちて、のぼりける程に、はや馬ねぶりおして、たづなうちすてゝ馬にまかせて行程に、此馬大和国の家のかたへ行けり、つや〳〵としらずして、はるかに帰りにけり、さる程にさがりてのぼる夫に行あひてければ、夫これも何方へおはするぞといふ時、はじめておどろきにけり、ねぼけてかくいふ夫お、逃てくだるぞと心へて、ぜひなくしかりて、やがて件の夫おからめたりける、夫のふ祥こそおかしく候つれ、