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平治物語

待賢門軍附信頼落事
援に鎌田が下人八町次郎とて、大かの剛者、早走り(○○○)の手きヽあり、馬にてこそ具すべけれども、中中徒立よかるべし、高名せよと雲ければ、一年も腹巻に小具足差堅めて、真前に進たりけるが、敵の馬武者の遥先立て落けるお、八町が内にて押攻て首お取たりければ、夫よりして八町次郎とぞ雲ける、されば又此者三河守の聞ゆる早馳の名馬に、両鐙お合せて被懸けるに、少しも不劣追付て、甲の手返に熊手お打かけん打かけんと、続て走ければ、頼盛も甲お打かたふけ打傾け、あひしらはれければ、五六度は懸はづしけるが、終に手返に打懸てえいやと引ば、三河守既に引落されぬべう被見けるが、帯たる太刀お引抜て、しとヽ切、熊手の柄お手本二尺計置て、づんと切て被落ければ、八町吹郎のけ、に倒てころびけり、