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忠は、至誠お以て主君に仕ふるお謂ふ、大にしては国家の為に尽し、小にしては一家の為に致すありて、大に径庭あれど、皆忠とす、主の危急に際し、命お棄てヽ救ふあり、主の為に哀訴して赦お請ふあり、身お労して、主家の貧お救済する等ありて一ならず、古来我邦に於ては、特に忠お致すお以て、臣民の念と為しヽかば、其事例殆ど枚挙に徨あらず、不忠は、殺逆より大なるはなし、我朝家に在りては、其事蹟幾ど希にして、遇〻至尊お幽閉し或は之お遠国に奉遷せしものありと雖も、亦実に数ふるに足らず、而して戦国乱離の際、幕府の臣隷にして、其主君に叛き、或は其主家お滅しヽもの往々にして之れ有り、今僅に其一二の例お採て以て、此篇に附載せり、