[p.1035]
塩尻
四十一
一下総国小金の城主、酒井家の息、〈金三郎〉小田原没落の後は、神君に仕へ奉りし、同国笛井の城主、原式部が息、〈童名吉丸〉十六歳の時より、神君に仕へ奉りし、京南伏見の御屋形、御造作の際、君不円土木の場へ出させまし〳〵けるよし、原御刀お持て著なりし故物おもはかで御供せし、酒井見て、己が草履お脱して、原にはかせし、君御覧まし〳〵て、原が男色にめでゝ、かゝるにやと思召ければ、女いかで草履お脱て、彼に与へしと仰けるに、畏て、かれは古しへの主の筋目、臣はかの家に在る者の世忰にて候と、啓せしかば、君打うなつかせ給て、〈○中略〉道お忘れざる神妙也とて、御感ありしと雲、