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近世奇人伝

木揚利兵衛
江戸に、日雇お業とする利兵衛といへるものあり、此わざお、俗に木揚といへば、即称とす、幼年のとき、つかへし主の家、衰はてゝ、九旬計の老婆、頼むよすがもなく成たるおはぐくむに、わが他に行たる間、妻が仕ふることの、疎ならんおうたがひて、明れば背に負て、わが行所へ伴ひ、其日の事業おなす傍に、物お敷てすえ置、わが喰ものおわけてもてなす、其外委しきことおばしらねども、此一事おもて、はかるべし、されば官にきこえて、大に賞し給ひ、賜有けり、享保年間のことにて、世にひろく称へたれば、京にても、是が姿お絵にかき、事状おもあら〳〵しるして、木揚利兵衛仁義礼智信と呼はりて売しが、おかしかりしと、その時おしる人かたりぬ、