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とはずがたり
はりまの国に孝女あり、やそぢにあまる姑、やまひにふしてあやうし、孝女はやうより、やもめにして、子ふたりもたるが、きはめて貧しけれど、姑につかふることは、よくそなへて、たらぬことなし、ある時その子なる、人のらうせる山にて、柴こりたりとて、其村人らこれおしばりころさんなどいふ、この事孝女が村に聞ふれば、その村おさ孝女が家にきたり、我ゆきてわびことせんに、そこにもゆけ、さらずばうけひかじといふ、孝女うちなきて、いなおのれはまからじ、ねがはくは君いかにもして、いきかへらしめ給へといふ、さてもわが子の命おしまずやとなじれば、孝女なみだおさへて、姑の命夜のまおはかりがたし、子のとられたる所道遠し、おのれまからむあとにて、むなしくならば、この世おおふるうらみなるべしとて、ついにまからず、村おさあはれがりて、ひとりゆきて、この事おせにいひたてゝ、わびことしければごとなく返しあたへたり、赤穂城下木津村のものなり、