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斉家論

完保元年の秋の比、門弟の中来て雲、武蔵国に、薪木売長五郎といふ孝心なる者あり、江戸表はこの沙汰にて、則其趣き板行にあらはれしとて、見せられけり、曰武蔵国多摩郡府中領押立村に、長五郎といふ小百姓あり、其身貧しく、妻にもはなれ、八十八歳になる母は養ひ、其外子共にもせがまれながら、母お大切にやしなひ孝おつくせしゆへ、公の御恵にもあづかりしとなり、