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続近世奇人伝

いとめ
いとめは若狭三方郡早瀬浦佐左衛門が妻なり、孝心深くよく舅姑に仕ふ、姑は先に死し、舅年八旬に余り、老旄して非理なることおいひのゝしれども、少しも逆ふ色なく給仕す、ある日いとめ外より帰りたるに、老人藁おちらして孫とあそぶ、何事おし給ふととへば、子産まねしてあそぶ也といふ、さらばわれも子お産んとて、又藁お持来り同じく戯るれば、老人興に入ること斜ならず、其他のあつかひもおして知るべし、〈蕎蹊雲、老萊子が児戯おなすにならはずして、あたれるもの也、〉一とせ深雪軒おうづむころ、茄子の美お食んといふ、いと心よくうけがひ、近きほとりの寺に走りて、茄子の糖漬おもらひ、水にひたして塩お去り羹にしてすゝむ、〈○中略〉つひに其行状お国侯聞し召、米若干賜り、家の租おも免し給ふとぞ、