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肥後孝子伝

我邦完文六年よ-宝暦五年に至る迄、公の褒賞お蒙る孝子忠臣、斯に集錄する所の者六十二人、顧ふに猶脱たる者多からん、老友神崎直衛嘗て其伝お撰して梓に鏤め、其令名美徳お周く民に顕はして、永く世に伝え、且風敷の万一お助んことお欲し、当時官府の簿書に因て既に筆お起し、未稿お脱するに及ずして没せり、凱惜からずや、是に於て正尊自揆らず、今其志お継、其事お成して三巻とし、是お前編とす、其後なる者数百人、皆其姓名お記し、姑く五十余人の伝お撰じて又三巻とし、是お後編とす、凡そ六巻名づけて肥後孝子伝といふ、〈○中略〉
天明二年壬寅仲秋 中村正尊謹識