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今昔物語
二十四
藤原実方朝臣於陸奥国読和歌語第三十七
今昔、藤原実方朝臣と雲ふ人有けり、小一条の大将済時の大納言と雲ける人の子也、〈○中略〉此の実方中将、愛しける幼き子におくれたりける比、無限り恋悲て寝たりける夜の夢に、其児の見えたりければ、驚き覚て後此なむ、
うたヽねのこのよのゆめのはかなきにさめぬやがてのいのちともがな、となむ雲て、泣々恋ひ悲びける、〈○中略〉
大江匡衡妻赤染読和歌語第五十一
今昔、大江匡衡が妻は、赤染の時望と雲ける人の娘也、其の腹に挙周おば産ませたる也、其の挙周長じて文章の道に止事無かりければ、公に仕りて遂に和泉守に成にけり、其国に下けるに、母の赤染おも具して行たりけるに、挙周不思懸身に病お受て、日来煩けるに、重く成にければ、母の赤染歎き悲て、思遣る方無かりければ、住吉明神に御幣お令奉て、挙周の病お祈けるに、其御幣の串に書付て奉たりける、
かはらむとおもふ命はおしからでずてもわかれんほどぞかなしき、と其の夜遂に愈にけり、