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平家物語

二度のかけの事
かぢ原五百よき、いく田の森のさかも木おとりのけさせて、城の内へおめいてかく、〈○中略〉かぢ原〈○景時〉らうどう共に、源太〈○景季、景時子、〉はいかにととひければ、あまりにふか入して、うたれさせ給ひて候やらん、はるかに見えさせ給ひ候はずと申ければ、かぢ原なみだおはら〳〵とながひて、いくさのさきおかけうと思ふも、子共がため、源太うたせて、かげ時いのちいきても、何にかはぜんなれば、返やとて又取て返す、〈○中略〉かぢ原お中に取こめて、我うつとらんとぞすゝみける、梶原まづ我身の上おばしらずして、源太は何くに有やらんと、かけわりかけまはりたづぬる程に、あんのごとく源太は、馬おもいさせ、かち立になり、かぶとおもうちおとされ、〈○中略〉こゝおさいごとせめたゝかふ、かぢ原是おみて、源太はいまたうたれざりけりと、うれしう思ひ、いそぎ馬よりとむでおり、いかに源太、かげ時こゝに有、同うしぬる共、かたきにうしろお見すなとて、おやこして五人のかたき三人うつ取、二人に手おふせて、弓矢取はかくるもひくも、おりにこそよれ、いざうれ源太とて、かいぐしてぞ出たりける、梶原が二度のかけとは是なり、