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宝物集

昔今人子お悲める事も、歌にて申すべし、
人の親の心は闇にあらね共子お思ふ道に迷ひぬる哉 中納言兼輔
五月(後拾遺)闇子恋森の郭公人知ずのみ鳴わ夕る哉 藤原兼房
咳き(月詣集)我子おなヽの里に置て今夜の月に面影ぞ立 藤原基俊
雛鶴の花の林に入ぬれば飛立までに嬉しかりけり 太宰大弐重家
子お思道おぞ祈る皇に仕ふる跡おたがへざらなん 中納言雅頼
是程志深く浅からぬ親の為に、孝養報恩せん人は、いかヾ懺悔とならずも侍らん、実に志の深き事は、親の子お思には過ず、
附悌〈不悌併入〉
悌はしたがふと訓ず、即ち弟の能く其兄に敬事するお謂ふなり、而して兄の善く其弟お恵 み、或は兄弟互に相愛せし事蹟の如き、亦此に併載せり、