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翁問答
上本
師〈○貝原益軒〉曰、〈○中略〉弟は悌おもて兄につかふる道とす、悌は敬ひしたがふとくなり、他人のとしおい、くらいたかきにつかふるも、おなじことはりなり、他人にても老たるおうやまふは、道理の当然なり、ましておやの身おわけて、我にさきだちてうまれたる兄お、うやまひしたがふべきこともちろんなり、兄は恵おもつて、おとくおひきゆる道とす、恵は友愛の二義おかねたり、愛はおやの子お愛するごとくに、ねんごろに親お雲、友はともだちのたがひに切磋琢磨するごとく、道おおしへあやまちおいましめ、至徳おあきらかにする様に善おせむるお雲、他人のとしわかきくらいいやしきにまじはるも、おなじことはりなり、他人にてもいとけなきに恵おほどこし、賤になさけふかくするは、道理の当然なり、まして弟はおやの身おわけて、分形連気の人なれば、友愛の恵おほどこすべき事勿論の義なり、この道理あきらかにして、おこなひがたき事ならねども、世上のまよへる人おみれば、多分兄弟のあひだ、他人よりもおろそかなり、わづかのよくのあらそひにてがたきの思ひおむすぶもあり、分形連気のことはりおしらず、わが身にて我身おそこなふありさま、愚痴の至極あさましき事なるべし、おなじくおやの身お分て生れたるものなれども、先後の序によつて、兄はたつとく、弟はいやしき衣第ありて、恵悌の道序お本としておこなふことはり、天のさだめ給ふ次第にて、おのつからある道なるゆへに、五教の第四に長幼有序と説給へり、