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奥州後三年記

将軍〈○源義家〉の舎弟左兵衛尉義光、思はざるに陣に来れり、将軍にむかひていはく、ほのかに戦のよしおうけたまはりて、院に暇お申侍りていはく、義家夷にせめられて、あぶなく侍るよしうけたまはる、身の暇お給ふて、まかりくだりて、死生お見候はんと申上るお、いとまたまはらざりしかば、兵衛尉お辞し申、まかりくだりてなんはべるといふ、義家これおきゝて、よろこびの涙おおさへていはく、今日の足下の来りたまへるは、故入道〈○源頼義〉の生かへりておはしたるとこそおぼえ侍れ、君すでに副将軍となり給はゞ、武衡家ひらがくびおえん事たなこゝうにありといふ、