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落穂集前編

馬場美濃守、〈○中略〉味方の敗軍の方お打詠め罷在候処に、真田兵部来て、山の下に馬お止、それに見へ給ふは、馬場殿にて候哉と、言葉お懸る、馬場聞て、美濃にて候、貴殿には如何と答へければ、兵部聞て、兄源太左衛門義、引退候と承り候故、手前も退候処に、兄が乗料の馬お、牽返し候付、其口附のものに、相尋候へば、源太左衛門ははや討死仕候と申に付、今朝出勢の砌、討死お遂るに於ては、兄弟一所と申合候付、是まで引返来候、若其許には源太左衛門討死の場おば、知給はずやと申に付、馬場申候は、源太殿討死の場と有乏は、頓て柵際近き所にての事にて候、其辺へは最早上方勢入込可申候間、御越にて及間敷候、我等儀も、此処に於て討死と致覚悟罷在候間、一処に可申合との返答に任せ、兵部も馬場が側に立双び罷在候処に、上方勢追々馳来候付、兵部、〈○中略〉討死お相遂候と也、