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慶長見聞集

山梨三郎とんせいの事
世に住詫て蓄年の春、江戸へ来り、一所に宿おかり、傭夫と成て、其日々々の身命お送る所に、兄雲へて三日に一度づヽ、兄の左京大夫方へ参りて起居お訪ふべし、兄お尊敬する道也、寒暑風雨お厭ふ事勿れ、是弟に付られたる其身の勉めと思ふべし、右京大夫も左京参りたらば、随分是お恵み、稽古事も共々に修行せらるべしと教諭せらる、夫よふ左京は風雨霜雪お厭はず、其日限お違へずして、馬にて往来せらる、