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孝義錄
十八/陸奥
兄弟睦者小左衛門 兄弟睦者清右衛門
耶麻郡上林村に百姓小左衛門といふものあり、弟お清右衛門といふ、小左衛門夫婦、その子二人、その妻二人、孫四人、清右衛門夫婦、その子一人、その妻一人、孫三人、あはせて十七人のもの同居して、いさゝかもあらそふ事なく、妻子の中にもへだてがましき事なく、いづれも我子のごとくいとおしみ、兄よめは弟よめお愛し、弟よめは兄よめおうやまひけり、かく兄弟ともに一所にあれど、子の子の末にもなりなば、家おわかつ事あらんも、はかりがたしとて、其家のつゞきに屋つくりしてうつりしがだがひにはなれすむ事おかなしみ、またもとのごとく居お同じうせしとなん、弟の孫おともなひて田面に出る日は、兄は家にとゞまりいて、足あらふ湯おまうけ、寒き頃は焚火の類まで何くれと心おつけ、兄弟ともに農事のいとまには紙おすき、市に出ればめづらしきものお求めかへりて、家つとゝす、又は饗応などありてまねかるれば、兄弟たがひにゆづりあひ、弟は兄おしてその招におもむかしめ、おのれは田面に出行に、兄また食の甘お分ちて弟にあたふ、その外郷里に睦しく、あらそふ事などがつてなかりき、里人の水論境論などいへる事あれば、兄弟ともにことはりお引て、その中お和らぐるに、里人も二人の行ひにめでゝ、争おやめぬ、つねに上おうやまひ、貢物は人より先におさめければ、元禄二年、領主より兄弟のものに、褒美として米おあたふ、