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孝義錄
三/三河
奇特者なみ
なみは碧海郡上野上村の枝郷なる永覚新郷の百姓喜左衛門の妻なり、天明六年の九月、風あらくふきて、家お打たふしけるに、夫はこれお防がんとて外面にいでゝありければ、その姉の、日ごろやみてふしぬるお、なみひきたてゝ、遁れ出しに、にはか事にて、娘の四つばかりになるお残しおき、ついにおしにうたれて、失てけり、女の身にして、子のあやうきおみすてゝ、やめるものお助けたる甲斐々々しきふるまひ、領主にきこえければ、おなじき八年の十二月といふに、褒美して米おとらせしとぞ、