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千歳のもとい
夫主につかへ給ふは貞順の二つ也、貞とは正しくいつまでもかはらぬこと也、されば女の遇不遇に操のかはらぬお貞女といひ、松の霜雪に葉がへぬお貞松と雲、婦の徳は柔順お貴ぶといへ共、又一つ動かぬ貞烈の徳有べき也、地の徳は陰なれども、坤の卦には直方大と雲へり、直は正しくしてまがらず、方は稜有て転ずべからぬ也、順ははじめにもいへる如く、ゆるやかにして己お立てず、陰は陽に旄たがふ道理お忘れず、夫主の指揮にしたがふおいふ也、夫婦の好は、終身はなれず、房室の間に周旋するなれば、しらず〳〵なれなるゝことも、出やすきものぞかし、故に常々男女の別お正して、礼義お乱さず、敬慎お専らにして、夫主の心お求べき也、夫主の心お求るといふて、佞媚にして、いやしくも親べき事にはあらず、夫主若過有に当ては、顔色お和らげ、心お静にして、諫べきことなり、