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平治物語

義朝野間下向附忠宗心替事
鎌田兵衛〈○政家〉は忠宗に向て酒お呑けるが、鷺後より景宗もと首お打て打落す、鎌田も今年三十八、頭殿と同年にて失にけり、〈○中略〉鎌田が妻女〈○忠宗女〉是お聞、討れし所に尋行、我は女の身なれ共、全弐は無き物お、如何にうらめしく思給らん、親子の中と、申せども、我も左こそ思侍れ、あかぬ中には今日既に別れぬ、無情親に添ならば、又も憂目や見んずらん、同じ道に具し給へとて、須臾は泣居たりけるが、夫の刀お抜儘に、心もとに指あたうつふし様に臥ければ、貫てぞ失にける、忠宗左馬頭お討奉る事は喜なれ共、最愛の娘お殺し、歎にこそ沈けれ、