[p.1129][p.1130]
駿台雑話

烈女種なしその人がらにも似ず、奇特に覚え侍るは、源義経の妾静が事にて候、〈○中略〉かの草も木もなびきし威に暢れず、勢に屈せず、始終志おたてゝ、義経に負かざりし事、高館にて殉死せし輩とも並称すべし、ちかきころ京師の醇儒中村惕斎が撰びしとかやいふ倭漢貞烈の女お載し、姫鏡と題せし書に、是おいひ残しけるこそ遺恨なれ、是は静娼家に生れて、出所たゞしからざる故なるべし、それはさる事なれども、名教お俾くるためには、是等おもすつまじき事と、翁〈○室鳩巣〉はかねて思ひし程に、今更も申つるぞかし、