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陰徳太平記
六十
土佐勢与州出陣附岡本城合戦之事
此合戦に虎之介〈○竹之内〉並に婿也ける弥藤弐討れぬと雲虚説、岡豊に至て聞えたり、弥藤次が妻是お聞、女のはかなさは、其実不おも正さず、実浅ましき吾身哉、父と夫の一度に討れさせ給ふ事の不幸は、これそも何の報ひぞや、今は生て何かせん、左無だに、うきふし滋き世間に、年月お送らんよりは、唯一日も早く死して、安養不退の報土に生れ、一つ蓮の坐お並べば、何の思のあるべきと、隻一筋に思切、落る涙の水茎に、事の後前正しく認め置、頓て自害してこそ死にけれ、〈○又見土佐軍記、宇和郡往昔城主記事、〉